介護保険と医療保険は、どちらも高齢者や病気・けがを抱える人々の生活を支える重要な保険制度です。しかし、それぞれの目的や適用範囲には大きな違いがあります。
本記事では、両者の違いや優先順位、併用できるケース、注意点について詳しく解説します(本記事は2025年5月現在の情報を元に作成しています)。
介護保険と医療保険の基本的な違いとは?
まずは、介護保険と医療保険がそれぞれどのような役割を果たしているのかを明確にしておきましょう。この2つの制度は目的や対象者、提供されるサービス内容などが異なるため、正しく理解しておくことが大切です。
目的の違い:生活支援と治療支援の役割の違い
医療保険は「治療」を目的としており、病気やけがの診療・手術・薬の処方といった医療行為に適用される制度です。
たとえば風邪やインフルエンザ、骨折などの急性疾患や、糖尿病や高血圧といった慢性疾患に対して、通院や入院、投薬などの医療サービスを受ける際に活用されます。医療保険は、あくまで「病気やけがを治す」ための支援に焦点を当てている点が特徴です。
一方、介護保険は「生活支援・介助」を目的とした制度であり、高齢や障がいなどにより日常生活の動作が困難になった人に対して、医療支援に加え、身体的・精神的な自立を支えるサービスを提供します。
具体的には、訪問介護(ホームヘルプ)、デイサービス(通所介護)、福祉用具の貸与、住宅改修(段差の解消や手すり設置)などが該当します。これらのサービスは、医療的な治療ではなく、日常生活の質を維持・向上させることに主眼を置いています。
対象者の違い:要介護認定の基準
医療保険は、日本国内に住むすべての国民が加入している社会保険制度であり、年齢や職業に関係なく、原則として誰でも医療機関を受診すれば自動的に保険が適用される仕組みです。
診療報酬制度に基づき、自己負担割合(原則3割、年齢や所得により1~3割)が定められており、病院やクリニックでの診療・検査・処方薬などが対象になります。
一方、介護保険は原則として40歳以上の人が加入し、実際に介護サービスを利用するためには、市町村の「要介護認定」を受ける必要があります。
この認定は、専門の調査員による訪問調査と医師の意見書をもとに、コンピュータによる一次判定と介護認定審査会による二次判定を経て、「要支援1~2」あるいは「要介護1~5」のいずれかに区分されます。
この結果に応じて、利用できる介護サービスの内容や限度額が決定される仕組みです。
そのため、医療保険は誰もがすぐに利用可能なのに対し、介護保険は一定の手続きと審査を経て、認定された人だけが対象となる点が大きな違いといえます。
介護保険と医療保険の優先順位について

介護と医療の両方が必要な場面では、どちらの保険を優先して使うべきか迷うこともあります。ここでは、制度上の原則や適用の流れについて解説します。
医療保険が適用されるケース
ここでは、医療保険が使える主なケースを紹介します。
急性期の治療が必要な場合(例:風邪、インフルエンザ、骨折など)や、手術、点滴、投薬といった医療行為には医療保険が適用されます。
加えて、入院・通院に伴う各種検査(MRI、CT、血液検査など)にも医療保険が活用されます。また、がん治療、心臓病、糖尿病、高血圧といった慢性疾患の継続的な治療や服薬管理にも医療保険が適用され、通院が長期化するケースでも継続的にカバーされます。
さらに、リハビリ病院での治療的リハビリテーションや、訪問診療なども医師の指示があれば医療保険の対象となることがあります。
介護保険が優先されるケース
医療行為ではなく、日常生活の支援や介助が必要な場面では、介護保険の出番です。ここでは、介護保険が中心となる代表的なケースについてご紹介します。
介護保険が対象となるのは、基本的に「生活の支援や介助」が必要な場合です。たとえば、入浴、排泄、食事などの日常動作が困難になった高齢者に対する訪問介護、通所リハビリ、デイサービスの利用は介護保険が適用されます。
福祉用具の貸与や住宅改修(手すりの設置や段差の解消など)もこの範囲です。また、要介護認定を受けた方には、ケアマネージャーが作成するケアプランに基づいて、必要な介護サービスが提供される仕組みとなっています。
訪問看護やリハビリはどちらの保険が使える?

原則として、要介護認定を受けている方は「介護保険」が優先されます。そのため、訪問看護や訪問リハビリも介護保険の枠内で提供されることになります。
ただし、医師の指示による特別な医療行為(点滴、褥瘡の処置、人工呼吸器の管理など)や、介護保険では対応できない範囲の専門的なリハビリ(たとえば脳梗塞後の集中的な訓練や術後の早期回復を目的とした短期リハビリなど)については、医療保険が適用される場合もあります。
介護保険と医療保険は併用できるのか?

原則として、同一のサービスに対しては介護保険と医療保険を併用することはできません。ただし、サービスの対象部位や目的が異なる場合には、例外的に併用が認められるケースがあります。
たとえば、以前から介護保険でリハビリテーションを受けていた部位とは別に、新たにがんの治療が必要になった場合には、がんの治療に関しては医療保険が適用され、従来通りのリハビリには介護保険が適用されます。
実際の現場ではこのような併用が行われることがあり、医療機関や介護事業所の連携によって柔軟な対応が取られることがあります。
介護保険と医療保険の併用に関する注意点

併用が可能なケースでも、注意すべき点があります。制度の複雑さや、判断の難しさを避けるためのポイントを確認しておきましょう。
主治医やケアマネージャーに相談する
併用に関して不明点がある場合は、まず主治医やケアマネージャーに相談しましょう。主治医は医療面からの必要性や制度適用の可否について、専門的な見解を示してくれます。
また、ケアマネージャーは介護保険に基づいたケアプランの作成や、各サービス事業所との調整を行ってくれるため、両者に相談することでより的確かつ現実的な支援が受けられます。
制度変更や自治体ルールを確認する
保険制度は国の方針変更や自治体の条例によって変更されることがあります。たとえば、ある年までは適用されていた制度が廃止されたり、新たに給付対象が拡大されたりするケースもあります。
自治体ごとに対応方針や助成内容が異なるため、自分の住んでいる地域の情報を定期的に確認することが重要です。
治療費の負担を抑えるためにはどうすればよいのか?
医療や介護にかかる費用は思った以上に大きくなりがちです。ここでは、少しでも負担を軽減するための具体的な対策を紹介します。
民間の医療保険に加入を検討する
介護保険や公的医療保険だけでは、実際の医療や介護にかかるすべての費用をカバーしきれないことが多く、予想以上の出費が発生することもあります。
たとえば、入院時の差額ベッド代や先進医療による治療費、通院のための交通費、付き添いに伴う生活費などは保険外であることが多く、家計への負担が大きくなる場合があります。こうしたリスクに備えるためにも、民間の医療保険を検討する価値は高いといえます。
がん保険や三大疾病に対応した保険、先進医療特約などを付帯することで、公的保険だけでは対応しきれない高額な治療費や長期療養にも安心して備えることができます。
ファイナンシャルプランナーに相談する
保険選びだけでなく、資産管理・老後資金計画・相続対策なども含めて、幅広いアドバイスが受けられるのがファイナンシャルプランナー(FP)の強みです。
FPに相談することで、家計全体のバランスを見直しつつ、無理なく加入できる保険を選ぶことができるほか、保険の見直しや契約内容の整理など、すでに加入している保険の活用方法についてもアドバイスを受けられます。
ファイナンシャルプランナーに相談するならこちらがおすすめ!
治療費を抑えるために、保険や資産形成に不安を感じたら、まずは専門家に相談してみましょう。特に次のような保険商品に関しては、自分に合った内容を選ぶことが重要です。
たとえば、がんや三大疾病などの重大な病気に備える「ガン保険」「特定疾病保険」や、延命治療よりも苦痛の緩和を重視する「緩和医療保険」は、医療費負担の軽減だけでなく、本人と家族の安心にもつながります。
また、将来の介護費用に備える「介護保険」は、年齢が高くなる前の早期加入が重要です。自分や家族の生活を守るためにも、どのような保障内容が必要かを明確にしておきましょう。
さらに、老後の生活資金を自助努力で準備する手段として「個人年金」や「変額保険」の活用も検討されるべきです。これらは老後資金の形成と資産運用を兼ね備えた商品であり、税制優遇があるケースも多く、長期的な視点で見たときに非常に有効な選択肢となります。
こうした多様な保険商品について、自分の収入・支出・家族構成・ライフプランを踏まえて最適な組み合わせを提案してくれるのがファイナンシャルプランナーです。
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まとめ
介護保険と医療保険は、それぞれ目的が異なる制度であり、使用の場面や対象サービスも異なります。必要に応じて適切な保険を選び、併用が可能なケースでは制度をうまく活用することで、経済的な負担を軽減することができます。
困ったときは、主治医・ケアマネージャー・ファイナンシャルプランナーなど、信頼できる専門家に相談し、自分にとって最適な保険活用法を見つけていきましょう。
