【プロ直伝!マネー教室】 “老後資金不足問題” と対策②~どう準備する?~

プロ直伝!マネー教室(第2回)老後資金不足問題と対策~どう準備する?~

2hogehoge

3hogehoge

前回は公的年金を中心とする平均的な老後の収入だけでは、「平均的な老後生活」を送るのもままならない状況であることをご説明しました。今回は老後に必要な資金をどのように準備すればよいかを説明していきたいと思います。

資産づくりの基本

皆さんは「資産づくり」や「資産形成」というと、どういったことを思い浮かべるでしょうか?
ひと昔前なら「資産づくり=投資=ギャンブル=危ない」といった連想や、「預金が安全」と信じて止まない方が多かったかもしれません。
最近は「資産づくり=積立投資=NISAiDeCo活用=有利」や、「預金=インフレ時の価値目減り=不利」という認識がかなり広まってきたように感じますが、まだ「投資は難しそう」というイメージをお持ちの方もいると思います。
まずは資産づくりの基本と言われている「積立投資」、「分散投資」、「長期投資」の3つをご説明します。

積立投資

積立投資とは、投資対象商品を選定し、定時定額で買い付ける方法です。例えば、世界株式インデックス型投資信託を毎月1万円ずつ購入するイメージです。

<積立投資が資産づくりの基本と言われる理由>

・そもそも、まとまった資産を持っていない人が資産をつくるには、収入の中からコツコツ積み立てるしかない

・投資対象商品の価格が変動する中、積立投資なら購入のタイミングを計る必要がない

・積立投資は、価格が高い時は少ししか買えず、安い時はたくさん買えるので、平均取得コストを抑えられる

・価格が下がっても「その分たくさん買える」、「取得コストが下がる」と思え、あまり価格変動が気にならなくなる

分散投資

分散投資とは、投資対象を特定の資産に集中させるのではなく、特性の異なる複数の資産に分けて投資する方法です。株式なら1銘柄ではなく複数銘柄に、1業種だけなく複数業種に、日本株だけでなく外国株も、さらには株式だけでなく、債券、不動産(REIT)も、といった具合に、投資対象の種類や地域などを分散させて投資するイメージです。

<分散投資が資産づくりの基本と言われる理由>

・「卵を一つのかごに盛るな」という投資格言が示すように、大事な財産を特定の資産に集中させると、アクシデントの際に一気に財産が毀損してしまうリスクがあるので、それを回避する手法である

・逆に、どの資産、どの分野、どの地域が急成長したり急騰したりするかわからない中、投資先を分散させておくことで収益チャンスにヒットする可能性を高める手法である

長期投資

長期投資とは、説明するまでもなく、長期にわたり投資・運用を継続する手法です。ここでいう「長期」とは、概ね10年程度以上の期間をイメージしています。

<長期投資が資産づくりの基本と言われる理由>
「複利効果」が期待できることです。
「複利効果」とは、運用により出た利益をそのまま運用(再投資)に回すことで、利益により増えた分にも利益が付くため、資産が増えやすいという効果です。複利効果は運用期間が長ければ長いほど威力を発揮します。

ただし、複利効果の大前提は「利益の再投資」です。まず利益が出ること、そしてその利益を引き出すのではなく、再投資に回すことです。

短期的には上下はありつつも、長期で見れば右肩上がりが期待できる資産で運用を行う必要があります。全勝である必要はありませんが、勝率の高い投資対象である必要があります。例えば、1年ごとに見るとプラスの年もあればマイナスの年もあるが、10年間の内訳でみるとプラスの年の方が多そうな資産で運用しなければ、複利効果は期待薄となります。

実は同様のことが「分散投資」にも当てはまります。長期で右肩上がりが期待できない資産や横ばいの資産にいくら分散投資しても、お互いのプラス・マイナスを相殺し合うだけで、合計値は横ばいのままということになりかねません。

要は、「長期にわたり高い確率で右肩上がりが期待できる資産で運用する」ということが肝となります。

 

マネータイプ診断

 

おすすめの資産づくりの方法

 

次に気になるのは、「長期にわたり高い確率で右肩上がりが期待できる資産って何だろう?」ということです。
例えば、日本企業だけでなく世界中の企業の中から、過去10年や20年にわたり右肩上がりに業績を伸ばし、株価も右肩上がりだった企業を複数銘柄見つけ出して投資するという案はどうでしょう?

銘柄も地域も分散され、過去の実績も十分です。一見良さそうに見えますが、まず、そういった銘柄を世界中の市場から見つけてくるというのはかなりの手間がかかりそうです。また、選んだ銘柄が過去の実績は十分だったとしても、ここから長期間にわたりさらに右肩上がりが期待できそうかどうかの判断が難しそうです。そして投資した銘柄の状況をウォッチしていかないといけないのも大変そうです。

では、世界全体の株式に投資する投資信託(世界株式インデックス型投資信託)に投資するのはどうでしょう?ご存じの方も多いと思いますが、世界全体の株式のパフォーマンスは、リーマンショックやチャイナショックなどの大幅下落を経ながらも、長期で見れば右肩上がりで推移してきました。銘柄も地域も分散されていますし、投資信託なので、個人で銘柄を探す必要もありません。

さらに、今後も長期にわたり右肩上がりが期待できる根拠として、世界全体の経済規模は今後も拡大する見通しだということが挙げられます。世界経済の規模と世界全体の株価は概ね連動して推移してきた経緯がありますので、今後も世界経済の拡大が見込まれることから、世界全体の株価も短期的には上下しながらも、長期的には高い確率で右肩上がりが期待できそうです。

ただ、世界株式インデックス型投資信託で資産づくりをする際の難点は、「短期的には上下しながらも」の上下の振れ幅が大きいという点です。先ほども挙げましたが、リーマンショックやチャイナショックのようなマーケットを揺るがすショックが起こると、株価が大幅に下落し、財産が大きく毀損してしまうということです。

残りの運用期間が長い若い方はあまり気にする必要はありませんが、残りの運用期間が短い年輩の方にとっては、万が一ショックが起きた際の影響が大き過ぎるかもしれません。

そういった大きな価格変動は避けたいという方には、世界株式だけでなく、世界債券や世界不動産(REIT)、商品(コモディティ)などにも分散させて投資するバランス型投資信託という選択肢があります。

 

資産づくりに有効な制度

次に、より効果的に資産づくりを行う方法として、国の非課税制度をフル活用することをお勧めします。

資産づくりに有効な国の非課税制度の代表は以下の3つです。

  • 少額投資非課税制度(NISA
  • 個人型確定拠出年金制度(iDeCo
  • 企業型確定拠出年金制度(DC

少額投資非課税制度(NISA)

NISAは、年間投資枠の範囲内で金融商品に投資することができ、売却益や配当金・分配金が非課税となる税制優遇制度です。NISAには上場株式や投資信託の通常の買付や積立投資で使える「成長投資枠」と、積立投資限定で使える「つみたて投資枠」の2種類があります。年間投資枠の上限は成長投資枠が240万円、つみたて投資枠が120万円です。成長投資枠とつみたて投資枠は併用が可能ですので、年間投資枠の上限は360万円ということになります。またNISAには「非課税保有限度額」として総枠1,800万円(成長投資枠1,200万円)という上限が設けられています。ただし、売却した分は翌年の非課税保有限度額の枠が復活します。制度自体が恒久化されており、非課税が適用される保有期間も無期限ですので、長期の資産づくりにぜひ活用したい制度です。

NISAのメリット NISAのデメリット
・売却益や配当金、分配金が非課税
・NISAでの取引は確定申告不要
  • ・元本割れのリスク

・損益通算の対象外

 

個人型確定拠出年金制度(iDeCo

iDeCoは、自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する年金制度です。基本的に20歳以上65歳未満の公的年金の被保険者の方が加入でき、掛金は65歳まで拠出可能で、60歳以降に老齢給付金を受け取ることができます。iDeCoの掛金は全額所得控除の対象、運用益は非課税で再投資できます。受取時も受取方法を年金か一時金(もしくは併用)を選択でき、公的年金等控除や退職所得控除の対象となります。掛金はご自身の加入区分に応じて上限金額が異なります。限度額の範囲内で月々5,000円以上1,000円単位で設定可能です。

<加入区分と拠出限度額>

  • 1号被保険者(自営業者等):月額6.8万円(国民年金基金・国民年金付加保険料との合算枠)
  • 第2号被保険者(会社員・公務員等)
     ・会社に企業年金がない会社員:月額2.3万円
     ・会社の企業年金に加入している会社員/公務員:月額2.0万円
  • 3号被保険者(専業主婦・主夫):月額2.3万円
  • 4号被保険者(任意加入被保険者):月額6.8万円(国民年金基金・国民年金付加保険料との合算枠)

    iDeCoのメリット iDeCoのデメリット
    ・掛金の全額が所得控除の対象
    ・運用益が非課税
    ・受取金額の一定額が所得控除の対象
    ・60歳まで引き出し不可
    ・元本割れのリスク
    ・各種手数料の負担

     

企業型確定拠出年金制度(DC

※制度内容は実施企業により異なります。下記は一例を記載していますので、詳細は実施企業にご確認ください。

DCは、事業主が拠出した掛金(企業によっては加入者によるマッチング拠出可能)を、自分で運用し、資産を形成する年金制度です。実施企業に勤務する従業員(第1号厚生年金被保険者または第4号厚生年金被保険者)が加入でき、掛金は60歳(会社によっては70歳)まで拠出可能で、60歳以降に老齢給付金を受け取ることができます。DCの掛金は全額所得控除の対象、運用益は非課税で再投資できます。受取時も受取方法を年金か一時金(もしくは併用)を選択でき、公的年金等控除や退職所得控除の対象となります。掛金は月額5.5万円から他の企業年金・基金制度掛金相当額を差し引いた額が上限となります。一般的には、企業が規定する加入者の資格等に応じた掛金額となります。

 

DCのメリット DCのデメリット
  • ・会社が掛金を拠出
  • ・掛金の全額が所得控除の対象
  • ・運用益が非課税
  • ・受取金額の一定額が所得控除の対象
  • ・会社による投資教育の実施
  • ・各種手数料は会社負担
  • ・60歳まで引き出し不可
  • ・元本割れのリスク

ここまで見てきた通り、上記の制度はいずれも、通常20%程度の税金が課される運用益が非課税という大きなメリットがあります。先述の通り、長期にわたり積立で分散投資を行うと利益が積み上がるケースが多く、その利益が非課税になるわけですから、これらの制度を使わない手はありません。

よく相談を受ける内容の1つに「これらの3つの制度をどう使い分ければいいですか?」というものがあります。基本的にはiDeCoDCは並列する制度と考えると、「iDeCoDC」と「NISA」の使い分けということになるのですが、大きな違いは「税制優遇の大きさ」と「60歳より前に引き出せるか否か」という点になります。完全に60歳以降もしくは65歳以降の老後資金をつくるのであれば、税制優遇の大きいiDeCoDCを優先的に活用すべきでしょう。ただし、60歳になるまで引き出せないという制約があります。60歳より前に使う可能性がある資金を積み立てるのであれば、その部分はNISAを利用すべきでしょう。

あともう1つ、ぜひ皆さんにお伝えしておきたいことは、「DC(もしくはiDeCo)やっています」という方の中に、投資対象商品として全額「預金」や「保険」を選択していらっしゃる方がいます。ご自身でいろいろと勉強し、検討に検討を重ねたうえで「預金」や「保険」を選択されたのであれば、それ以上申し上げることはございませんが、特に何も考えず「最初から全く変更していない(制度設計上のデフォルトのまま)」の方や「預金や保険が安全」ということで選ばれた方は、ぜひ見直しをお勧めします。特にこの先まだ運用期間の長い若い方はぜひ分散投資をお勧めします。

さらにもう1つ、これは余計なお世話かもしれませんが、会社にDCがあるのに、掛金分を拠出せず、給与として前払いで受け取っている方がいらっしゃると思います。家庭の事情、家計の事情でどうしても前払いで受け取らざるを得ない方は仕方ないと思いますが、そういった方以外の方で、前払いでもらった資金をご自身で「老後のために」と貯蓄していらっしゃる方を時々お見かけします。前払いでもらうと給与として所得税がかかります。同じ老後資金を蓄えるのであれば、DCを使った方が所得税がかからない分、お得です。

ぜひ、ご自身の資産づくりの方法や内容を一度見直してみましょう。

専門家に相談するのも一手

さて、ここまで、老後の収入や費用、不足額の試算、不足額を補うための資産づくりの方法など、ご説明してまいりました。「こんな文章で書かれてもよくわからない」、「もっと個人の状況に沿ったアドバイスが欲しい」と言った方もいらっしゃるでしょう。

そういった方は、専門家に相談するのも一手です。様々な専門家がいますが、ライフプランに関する資金運用の相談であれば、FP(ファイナンシャルプランナー)に相談するのが最適だと思います。FPは、個人のライフプラン表の作成やそれに応じたキャッシュフロー表の作成などしてくれます。シミュレーションをもとに、資産運用のアドバイスなどもしてくれます。ぜひ一度、FPなどの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

recipe_carousel_5

 

SHARE

久保 貴洋

この記事の著者 久保 貴洋

1993年に大和証券に入社し、資産運用営業や株式公開営業を担当。大和ネクスト銀行設立やファンドラップ企画にも従事。2019年からクレディセゾンへ出向し、連携ビジネスを企画・実施する傍ら、カード会員や社員向けのセミナー講師や資産運用相談も行う。日本証券アナリスト協会検定会員

    おすすめ記事

    こちらの記事もおすすめ